高校受験が終わり、天文学部は明日から一泊二日での合宿の最終確認をしていた。冬の空に満天の星を眺めながら、最後の一時を過ごそうと計画している。
「ねぇ、明日の当番、隆哉は買い出しでいいよね?」
「ああ」
有馬隆哉は一年の時から同じクラスで仲がいい男子だ。背が高くて見目も良く、女子からは人気があった。そんな中の私も一人。
隣の席になったのがきっかけで、よく話をするようになった。星が好きって言う共通点とかあったりして、同じ部活に入ったんだ。
はじめはサラサラな髪だなぁなんて思って見てるだけだったんだけど、だんだん目で追ってる機会が増えてる事に気付いた。
でも、私には勿体な過ぎる男の子だって感じてたのも事実。
「何よその態度。隆哉ってば自分は関係ないような顔しちゃってさ」
返事無しでそっぽ向いてるし……。
何を言っても、会話が成立しないこの頃。隆哉は私を見ようともしない。これじゃ、いつまで経っても好きって言えないよ。ううん、伝えたいけど、伝えられないんだよね。
素直に好きと言えなくて三年間を過ごしてきたんだ。付かず離れずの関係を保ちながら、気持ちは表に出さないようにしてきたつもり。
なのに、最近ではそんな関係も崩れそうなんだ。
「ちょ、隆哉ちゃんと聞いてる?」
「……ああ」
どうして、こんなに素っ気ないんだろう。きっと、まだ怒ってるんだ。
頬を膨らませ、私はそんな隆哉を横目に大きなため息を漏らす。これが最近の風景。そして、切なくなる瞬間。
ずっと、隆哉と一番仲がいいって思ってた。でも、今はそんな自信もない。
「あたしはかぐやと同じでいいんだよね?」
その隣で高嶺恭が苦笑いを浮かべながら訊いてきた。女の私から見ても美人で、それでいて性格も明るい。ふわふわの髪がまた、恭の可愛さを引き立ててる。
「そうね、恭は私と同じ炊事係だよ」
「楽しみだよねぇ。中学校生活最後の合宿だ」
恭は私にとって親友でありライバルであり……隆哉の傍にいるもう一人の親友。そして、私が想いを伝えられない原因。
だけど、そんな胸中は悟られちゃいけない。隆哉が好きだなんて口が裂けても言えない。
恭に「隆哉が好き」と言われたのは二年の秋だった。
驚いたけれど、それが自然だと思った。だって、私たち三人はいつも一緒にいた。
私が隆哉と一緒に天文学部に入った時、恭は然程、天文が好きじゃなかったくせについてきたんだよね。思えば、私より先に隆哉を好きだったのかもしれない。
だからって、後先関係なく簡単に譲れる気持ちじゃない。こんなことなら、恭に言われる前に隆哉に想いを伝えとくべきだった。でも、出来なかった。
――そして、出来なくなった。
隆哉への想いを告げられた日、恭の中にも不安はあったんだと思う。
『かぐやは、隆哉の事、好きじゃないよね?』
そんな確認をされた。あまりにも急だったから『良い友達』なんて答えちゃって……ホント後悔の日々だよ。
「高校に行ったら見事にみんなバラバラだし寂しいよね」
「何言ってるの。恭は隆哉と高校一緒じゃん。それが一番嬉しいくせに〜」
そう茶化して突っ込むと、恥ずかしそうに恭は紅潮した頬を両手で隠した。私にはない繋がりを持っている。それが羨ましくもあり、もう、勝てないかもしれないと諦める理由にもなる。
私は春から隆哉とは別の高校へ行く事が決まっている。だから、これが最後に過ごせる貴重な時間だった。なのに、隆哉の態度ときたら冷た過ぎるくらい私を見ようともしない。
「悪い、今日は用事があるんだ。先に帰る」
隆哉は早々に立ち上がり、恭にそう言うと、すぐさま教室を後にした。
そう、隆哉は私じゃなくて、恭に話し掛けるんだ。
「隆哉って最近変だと思わない?」
恭が耳元で囁く。
「そ、そう?」
「そうだよ。高校に受かったってのに全然嬉しくないみたいだしさ」
「そんな事ないでしょう?」
「そうかなぁ、絶対に変よ。だって前はあんなに冷たくなかったよ。なんかさ、最近かぐやの方を見ようとしないでしょ?」
「え? あ……別に気にならなかったけど……」
ウソウソ、本当は凄く気になってる。隆哉の態度を見るたびに、苦しくなる。
「もしかして」
な、な、なに?
「喧嘩でもした?」
「いや、別に……してない、と思う」
「ふうん、なら良いんだけど……」
隆哉の態度が冷たい訳……本当は知ってる。その答えは、私にあるのかもしれない。